―世界・日本を問わず進行する生殖力低下の実態と背景―

「自然に子どもは授かるものでした」という昭和世代の常識は、急速に古びたものとなりつつあります。近年、医療現場では「原因不明の不妊」「検査では異常なしなのに妊娠しない」といった声が増加しており、妊孕力(fertility)の低下はもはや他人事ではありません。

実際の調査にも、その変動の深刻さが反映されています。ヒガイ・レヴィンらによるメタ解析によれば、1973年から2011年にかけて、北米・ヨーロッパ・オーストラリア・ニュージーランドの男性において、精子濃度は年間平均約1.4%ずつ低下し、総減少率は約52.4%に達しました PMC。さらに2014–2019年の研究データを統合した2023年の最新メタ解析では、アジア、南米、アフリカを含む全世界的な傾向として、精子数の低下が加速していることが示され、世界規模での継続的な減少が明らかになりました。

不妊の有病率そのものも、看過できない数字です。世界保健機関(WHO)の報告では、生殖年齢の人々のうち約6人に1人(約16~17%)が一生のうち不妊を経験するとされています 世界保健機関。さらに男性が主因あるいは共因として関与する割合は、全体の約50%にのぼるとの報告もあり、男性不妊への関心強化が不可欠です。

こうした事態に深く関わる要因として、環境や生活習慣、社会構造の変化が浮かび上がります。近年の研究では、プラスチック由来の化学物質(ビスフェノールAやフタル酸エステルなど)が内分泌攪乱物質として作用し、胎児期からの影響で将来の生殖能力を損なう可能性が強く指摘されています。とくに顕著なのは、年々の精子数の低下率が—1973年から過去50年間は年間1%前後で推移していたものが、2000年以降では2%を超える速度に加速しているという警告です。

生活習慣面でも、喫煙・過度な飲酒・肥満・慢性ストレス・睡眠障害などが、視床下部‐下垂体‐性腺軸(HPG axis)を通して妊孕力に悪影響を与えることが知られています。これらを受けて、協会としては、L‑カルニチン、ビタミンE、CoQ10などの抗酸化物質の摂取や、生活習慣の整備による一定の改善効果が期待されることを科学的根拠を基に啓発していきたいと考えています。