―データで見る現状と、共に歩む生殖支援を目指して―
不妊と聞くと、女性の問題として捉えられがちです。しかし、WHOの指標に従えば、男性要因が関与する割合は全体の約50%にも達します 。にもかかわらず、臨床の現場では女性から調査を始める慣習が根強く残っており、男性の意識と主体性が十分に育まれていない現実があります。
臨床的に見ても、無精子症は男性人口の約1%、それに起因する不妊が男性不妊症の約20%を占めるとされます 。また、精子の運動率は30代以降に低下し、50代になるとGrade A+B運動率が30%台にまで落ち込むという国際的なデータも存在します。
さらに、免疫性不妊として知られる抗精子抗体(ASA)は、男性、女性いずれにも発生し、多くは不妊の原因となる場合があります。男性不妊の約20%はこの免疫学的因子によるものとする報告もあり、検査対象としての重要性が高まっています。
生活習慣による影響も無視できません。長時間の高熱への曝露(例:サウナ)、座位の多い生活、自転車の影響、ストレス、肥満は精子の質に悪影響を与えることが示されています。さらに、農薬中の有機リン系やカルバメート系化合物への曝露が、精子濃度の低下と関連するという研究があり、環境・産業化社会がもたらす問題を浮き彫りにしています。
したがって、不妊対策は「女性だけの問題」ではなく、二人で向き合う課題であり、「男性にも主体的に関わってもらう」文化づくりが不可欠です。当協会では、男性向け啓発ツールや教育コンテンツの整備、医療相談の場における男性の積極参画を促す取り組みを推進していきます。鼓舞し合いながら前に進める社会が、私たちの目指す未来です。